
ACE(Adverse Childhood Experiences)
ACE(エース)は子どもが経験する、虐待・ネグレクト・家庭内不和などの慢性的で強いストレス体験のことです。
こうした体験は、心だけでなく脳や身体の発達にも長期的な影響を与える可能性が、多くの研究で示されています。
子どもにとって家庭は、本来「安全な場所」です。
でも、その場所で怒鳴り声が響いたり、無視されたり、誰にも助けを求められない状況が続くと、子どもの身体は常に危険に備える状態になります。
人の身体について少し説明しますね。
私たちは、危険を感じると自動的に反応します。
たとえば心拍数が上がったり、呼吸が浅くなったり、体が緊張したりするなどの反応があります。
これは本来、危険から身を守るための大切な仕組みです。
ただ、家庭の中で長期間ストレスが続くと、このシステムが慢性的に働き続けることになります。
その結果、脳の発達にも影響が出ることがわかってきました。
とくに感情の反応に関わる部分(扁桃体)は過敏になり、
逆に感情を調整したり判断を助けたりする部分(前頭前野)の働きは十分に発達しにくくなることがあります。
さらに、記憶や学習に関わる部分(海馬)もストレスの影響を受けやすいことが知られています。
こうした変化は子どもがその環境で生き延びるために適応した結果と考えることができます。
常に周囲の危険を察知しなければならない環境では、感覚が鋭くなることは自然な反応だからです。
ただし、このような状態が長く続くと、大人になってからも身体が危険に備え続ける傾向が残ることがあります。
強い不安を感じやすい、人間関係の中で緊張しやすい、その他の慢性的な身体症状として現れることもあります。ACE研究では、こうした経験の積み重ねが、将来のうつ病や依存症、心血管疾患などのリスクとも関連する可能性が指摘されています。
では、こういった安全でないと感じると出てくる自動反応は変わらないのでしょうか。
いいえ、私たちには変わる力も備わっています。
人間の脳と身体は、生涯にわたって変化する力を持っているのです。
安心できる人との関係や、理解と共感のある環境、そして適切な心理的支援は、長く続いた緊張状態を少しずつ和らげていく助けになります。
ACEは「過去の出来事」を指す言葉です。
また、人がどのような環境で育ってきたのかを理解するための視点でもあります。
安全な関係性の中で身体の感覚に気づいていくカウンセリングを通し、心と身体は少しずつ落ち着きを取り戻していきます。人のこころには、本来回復していく力があるのです。